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No.1

 「白露」も過ぎたというのに、未だ30度を超える毎日。 夕方、会社から帰ると、鉢植えの草花への水遣りが日課と成ってしまった。 そして、身体中に汗をかき、そのまま浴室に直行。その後に浴びるシャワーが 実に爽快である。
  私は酒をやらない。酒好きの方であれば、一汗かいた後のビールの一杯が実に 旨いであろう事が容易に想像がつく。

  私の趣味の一つに渓流釣りがある。 沢に木々の新芽が吹く3月の中頃から、“秋”を感じる9月までの約半年の間は、 休みが取れると決まって渓に入り、ヤマメやイワナ等の渓魚と戯れる事が何よりの 楽しみでもある。
  初夏にはタラの芽やワラビ等の山菜類を採取し、沢に水が枯れる盛夏には暑さ 凌ぎを兼ねて釣行をする。 平地では茹だる様な暑さでも、沢を渡る風は実に心地よく、こうなると渓魚が釣れよ うが釣れまいが、どうでも良いとさえ思えるのである。
  9月もやがて終盤。残り半月で私の夏も終わり、渓流釣りは来春3月までお預けとなる。


  ところで、私の生まれ故郷は鹿児島から洋上遙か離れた屋久島である。 そこで、小学時代を過ごした。
  祖父は宮崎の山村出身の樵で、この祖父が私を 折りにつけ、山や海に連れて行ってくれた。山の幸・海の幸を獲る為である。
  ある時、祖父が自身の生まれ故郷である『秘境・椎葉村』の話をしてくれた。
『椎葉の里ではナ、正月前にはショウケでエノハを掬うて来て酒の肴にすっとヨ』
『海が遠して、無塩は手にゃ入らんからナ』

  この話は今でも私の脳裏に記憶されている。 この記憶が、今日私が渓流釣りにのめり込むきっかけと成ったか否かは定かでないが、 結婚当初、会社勤めの関係で約15年、熊本市の近郊で生活し 、子供達もここで大きくなり、天草の海にもよく出掛けたけれど、結局自然に足が山に向かう様になった。
  気が付いたらやがて30年が過ぎようとしている。
(つづく)

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